デス・オーバチュア
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「何よ、このふざけた存在は？」 クロスは、後方に下がるように大鎌を回避すると同時に赤霊紅蓮波を放った。 だが、雪だるまは信じられない速度で紅蓮の炎を回避した上に、クロスの背後に回り込む。 間を置かずに大鎌がクロスの胴体を真っ二つにしようと横に一閃された。 それより一瞬速く、クロスは後方宙返りしてかわす。 「黄霊雷神撃！（きれいらいじんげき）」 凄まじい雷を纏ったクロスの右拳が雪だるまの頭部に鉄槌のように叩きつけられた。 雪だるまは頭部が跡形もなく消し飛んでも、何事もなかったかのように、すぐさま大鎌でクロスに反撃の一撃を放ってくる。 「しつこ……いっ！？」 突然、飛来してきた巨大な白銀の十字架が、雪だるまの下半身（下の雪玉）も大鎌も全て粉々に粉砕し通過していった。 「ちょっと、あなた、あたしまで吹き飛ばす気っ！？」 白銀の十字架は手裏剣か三日月刃（ブーメラン）のように回転しながら、主人の手元へと戻る。 修道服姿の幼い少女、ランチェスタは自分より巨大な白銀の十字架を左手一本で軽々と受け止めていた。 「お嬢様、気を抜かれてはいけません！」 ファーシュは、クロスに死角から迫ろうとしていた雪だるまの頭部を桜色のハンマー（元はモップ）で打ち砕く。 「解っているわよ！」 クロスは後ろ回し蹴りで雪だるまの残った下半身を蹴り抜いた。 「にしても、嫌な武器使うわね……こいつらっ！」 クロスは消滅した雪だるまの大鎌を拾うと、新たに迫ってくる雪だるまに向かって、先程のランチェスタの十字架のように回転させて投げつける。 雪だるまは自らの大鎌で、飛来する大鎌をあっさりと切り払った。 「もらったっ！」 クロスは、雪だるまが大鎌を切り払うために立ち止まった一瞬の間に、雪だるまの懐に潜り込む。 「魔性滅殺拳！（ましょうめっさつけん）」 紫の閃光を放つクロスの右アッパー（下から上に打ち上げる拳撃）が雪だるまの体を一撃で全て粉砕した。 「これで全滅……」 クロスの言葉が言い終わるより速く、新たに十体の雪だるまが雪原から飛び出すように出現する。 「キリがありませんね」 ファーシュは無数の銀色のナイフとフォークを出現したばかりの雪だるま達に投げつける。 雪だるま達はそれぞれ信じられない速さで大鎌を振り回し、全てのナイフとフォークを容易く打ち落とした。 「やはり、こんなお遊びは通用しませんか。一体一体がかなりの戦闘技術の持ち主……」 ファーシュは再度、ナイフとフォークを投げつけると、今度はその後を追うように、自らもハンマーを抱えて突進していく。 雪だるまはやはり先程と同じように大鎌でナイフとフォークを打ち落としていった。 「砕っ！」 ファーシュの鉄槌が雪だるまを一体、一撃で完全破壊する。 ナイフとフォークはあくまで牽制、囮であり、ハンマーの一撃こそ本命だった。 「さて……何度も同じ手にかかっては……くれないでしょうね？」 正面から正当に打ち合ったらかなり手こずるだろう。 まして、残り九体に一斉に襲いかかられたら……。 「やっぱ魔術だけじゃ無理ね……神魔甲を使うしかないか……こんな雑魚ぽいのに使いたくないんだけどな……」 クロスは、ファーシュを庇うように前に出た。 「お嬢様、お下がりください！ ここは私が……」 「あなたこそ下がってなさい、ファーシュ。あなたの戦闘力じゃ倒しきれないでしょう、こいつらは？」 「……それは……ですが……」 「体が雪でできていて馬鹿みたいに脆いことを除けば、戦闘力自体はあたし達と大差ないレベル……たくっ、何よ、このふざけた存在は……」 もしこれで、肉体もクロスと同等以上の強度があったら、一体倒すのも至難の技になっただろう。 「アクセルと殺り合った時みたいに全開で行くしかないわね」 この雪だるま達は低めに見積もっても、中の上ぐらいの魔族の強さがあると推測できた。 クロスは、胸の前で両手の拳をぶつけ合わせる。 「輝き叫べ、神魔の……」 「BLOOD ROYAL」 突然出現した血のように赤き閃光が全ての雪だるまを呑み込み、一瞬で消し飛ばした。 ナイトの横に差し出した右腕を止まり木にするようにして、深紅の巨大な蝙蝠が留まっていた。 「余計な手出しだったかな、クロスティーナ？」 深紅の蝙蝠はナイトの腕から飛び立つと、彼の背中に張り付き、漆黒のロングコートの背の模様と化す。 「……誰よ、あなた？」 「酷いな、忘れちゃったのかい？ あの運命的で情熱的な出会いを……」 ナイトは態とらしく苦悩するようにそう言うと、遙か遠方に居たにも関わらず一っ飛びでクロスの前に降り立った。 「相変わらず……いや、以前にもまして魅力的になったね」 ナイトはクロスの手をとると、跪き、その甲にそっと接吻する。 「なっ！？」 「神と魔の狭間、神々しくも禍々しき姫君よ、貴方の騎士（ナイト）が馳せ参じました」 「ううっ……？」 クロスの背筋に寒気が走った。 なんだろう、この少年は？ 一挙手一投足が寒いぐらいに気障……気取っているのだ。 「助勢して戴いたことにはお礼申し上げますが、そろそろお嬢様から離れて頂けませんか？」 ファーシュが不機嫌そうな表情で冷たく言う。 「これはただの挨拶だよ、可愛い侍女さん」 ナイトは優雅に微笑すると、クロスの手首を離して、立ち上がった。 「従者が主人に対して独占欲を持つのはあまりよくない。まあ、それも忠誠心の現れなのかもしれないけどね」 「……で、あなた、誰なのよ？ 子供のくせに気障というかなんというか……そもそも馴れ馴れしいし……」 「ああ、本当に俺が誰だか解らないんだ？ じゃあ、面白いから解らないままにしておこうか」 ナイトは気障に、そして少し意地悪げに笑う。 「はああっ？」 「俺と君は以前出会ったことがある。そして、俺は君の味方、それだけ解っていれば問題はない」 「問題あるわよ！ あなた、いったい……」 「だから、ナイト。そう呼んでくれればいい。ちなみに……」 ナイトのコートの背の深紅の蝙蝠の模様が浮かび上がり、本物の巨大な深紅の蝙蝠になると、彼の右肩に留まった。 「彼女の名前は魔夜（まや）、仲良くしてやってね」 「仲良くって……うわ、ちょっと……」 深紅の蝙蝠はナイトの肩からクロスの肩に飛び移ると、甘えるように器用にクロスに頬ずりする。 「黒ずくめの衣装……蝙蝠……お嬢様、この方はおそらく……」 「ええ、解っているわよ……ちょっと、もう解ったから、仲良くしてあげるから、離れなさいよ……しっしっしっ」 クロスが追い払うと、蝙蝠は、ナイトの背中のコートの中に模様となって戻っていった。 「……で、あたしは吸血鬼の騎士も使い魔も持った覚えないんだけど？」 「ああ、それは解るのか？」 「当たり前でしょう。黒ずくめで色白の美少年、蝙蝠なんかを引き連れている……これで吸血鬼じゃなくて狼男だったら大笑いよ」 「まあ、そうかもね。でも、そこまで解りながら、俺が誰だか解らない……思い出せないのはどうかと思うけどね」 ナイトは面白そうに笑う。 「うっ……本当、あなたとあたし会ったことがあるわけ？ 全然記憶にないんだけど……だって、吸血鬼の知り合いなんて……」 クロスの脳裏に浮かんだのは、ファントム十大天使の一人ティファレクト・ミカエルだった。 他に最近出会った吸血鬼など……思い当たらない。 いや、最近に関わらず実際に吸血鬼と戦った、関わった、見たことなど……。 「まあ、思い出さないなら無理に思い出すこともないさ。それより、さっさと先に進まないか？ あの雪像達は正真正銘、地面を埋め尽くしている雪から作られる無限の兵士……じっとしているとまた……」 言っている傍から、雪原から五体の雪だるまが飛び出した。 雪だるま達は背後から一斉にナイトに斬りかかる。 「BLOOD BLADE」 ナイトの右手首に深紅の巨大蝙蝠が留まったかと思うと、次の瞬間、彼の右手には深紅の両斬刀が握られていた。 両斬刀……二本の刀を繋げたような握る部分以外全てが刃の剣。 深紅の巨大蝙蝠が翼を広げそのまま刃物になったかのような奇怪な武器だった。 「……いくらでもキリなく出現して襲ってくるから、さっさと先に進もうか」 大鎌の刃はナイトに届くことなく、雪だるまが全て一斉に崩壊し、雪原へと還る。 いつ斬ったのか、クロスにはまったく見えなかった。 「……あなた、変な奴だけど……強いわね……」 「まあ、今の君よりはね」 「つっ……」 こうして向き合っていてもたいして強大な『力』を感じるわけではない。 だが、間違いなくこの吸血鬼は、自分よりも遙かに強いということは認めないわけにはいかなかった。 「じゃあ、行こうか。もう少し山頂に『店』があるから、そこで一息つこう」 「店？ こんな所に？ いったい何の店が……」 「BLOOD ARROW」 ナイトの手首に固定された両斬刀の峰に赤い弦が走り、弓と化し、赤い矢が生まれ装填される。 ナイトの右手の指が微かに動いたかと思うと、赤い矢が発射された。 赤い矢は凄まじい速さで雪原を飛び、雪原からいきなり飛び出した雪だるまを貫くと、そのまま地平の彼方へと消えていった。 「何、その弓、クロスボウみたいに片手で射れるの？」 「……驚くところはそこなのかい？」 「いや、だって威力の方は別に二番煎じというか、似たようなの見たことあるから……」 たった一本の矢が雪だるまを跡形もなく粉砕していったという事実。 事前にアンベルの光輝の弓矢を見ていなかったら、確かにその現象こそ驚くべきことだった。 「まあいいよ。俺がエスコートするから、後からゆっくりとついておいで」 ナイトは再度赤い矢を生み出し装填すると、ゆっくりと先頭にたって歩き出す。 「お嬢様……」 「解ってるわよ、あんな得体の知れない奴にほいほいとついていくなって言うんでしょう？」 「……いえ、そうではなく……ランチェスタ様がいらっしゃらないのですが……」 「えっ？……なんですって！？」 「……どうしましょうか、お嬢様……？」 「……あの子供をこんな所で迷子にさせたなんて言ったら……姉様、きっと怒る……よね？」 「おそらくは……街中での迷子ならまだしも……この雪山では『遭難』ということになってしまいますので…」 「…………」 クロス達の注意がナイトに向かっている間に、ランチェスタの姿は完全に消え去っていた。 「一日眠っただけで……もう体はいいのか？」 「その前にすでに二週間も眠っている……寝過ぎた……」 「なるほど、そういう考え方もあるか……？」 「ではな、世話になった」 ガイ・リフレインは玄関のドアを開けた。 純白の雪に埋め尽くされた世界が眼前に拡がる。 「借りはいずれ必ず返す……じゃあな、皇……リーヴ」 ガイは迷うことなく雪の世界へと足を踏み出していった。 「借りというなら、私よりあの女にだろうに……」 ガイを拾ってきたのも、治療したのも全てはメディアのしたこと、リーヴはあくまで部屋を貸しただけに過ぎない。 「まあいい……これでようやく静かになる……好きなだけ堕落できるというものだ……」 リーヴが微かに指を引くと、ガイが開けっ放しにしていったドアが閉ざされた。 「さて、まずは何をするか……？」 時間はいくらでもある。 まずは何をするか考えることで、暇を潰すことにしよう。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |